抄録
植物の葉緑体ゲノムは2種類の色素体RNAポリメラーゼ(PEPとNEP)によって転写される。PEPは色素体コード、NEPは核コードの色素体RNAポリメラーゼである。コケ植物であるヒメツリガネゴケでは、PEPのαサブユニットをコードするrpoA遺伝子が色素体ゲノムでなく、核ゲノムに存在することから、高等植物の色素体とは異なる転写機構が働いている可能性が考えられる。本研究では、ヒメツリガネゴケにおける色素体遺伝子の転写機構を明らかにするため、rpoA核遺伝子(PpRpoA)破壊株の色素体遺伝子の発現解析を行った。PpRpoA破壊株における色素体遺伝子の発現プロファイルを色素体DNAアレイ解析とノーザン解析で調べた。さらに、単離葉緑体のrun-on転写活性(転写の伸長反応)、及び葉緑体抽出液を用いたin vitro転写活性(転写開始反応)を測定した。本研究で得られた解析結果から次の結論を導きだした。(1)ヒメツリガネゴケ葉緑体は高等植物の葉緑体同様に、PEPとNEPが色素体遺伝子の転写に働いている。(2)光合成遺伝子がPEPとNEPで転写されている。(3)PEPとNEPが同一の転写開始点をもつ。(4)コケ植物では、高等植物の色素体とは異なり、PEPとNEPの機能分担が未発達である。