抄録
HMG-CoAレダクターゼはメバロン酸経路の初期段階の反応を触媒する。シロイヌナズナにはHMG1とHMG2の2つ遺伝子があり、両遺伝子のT-DNA挿入変異体を単離した。hmg2の形質は野生型とほぼ同様であったが、hmg1は雄性不稔形質を示し、花粉発芽能と花粉伸長能が低下していた。HMG1のmRNAは、タペータムおよび小胞子で強く発現していた。hmg1では、雄性配偶子内の構造は正常だが、タペータムに異常が見られた。タペータムにはタペトソームとエライオプラストという二種類の脂質に富んだオルガネラが存在し、これらはステロールエステルを含むと考えられている。花粉形成過程を通じて電子顕微鏡観察したところ、野生型でタペトソーム内部に電子密度の高い物質が蓄積する時期に、hmg1ではその蓄積がほとんど観られず、著しく縮小したタペトソームが形成されていた。hmg1へのスクアレン投与で稔性が回復したことから、原因物質はステロールであると予想された。さらに、hmg1のタペータムで脂質量が低下していることも確認できた。以上のことから、タペータムにおいてHMG1が働くことでタペトソーム等にステロールが蓄積され、それらの物質が雄性配偶子側に移動し、花粉発芽や花粉管伸長に機能するものと思われる。さらに、HMG1とHMG2の両遺伝子が雄性配偶子内で発現機能すること、及び雄性配偶子内でのステロールの役割についても報告する。