抄録
EMSミュータントライブラリーから分離したpcb2変異株は、野性株に比べて淡い体色を特徴とする。そのクロロフィル含量は約1/3に減少し、特にクロロフィルbの減少は著しい。葉肉細胞の電子顕微鏡観察を行ったところ、チラコイド膜のグラナスタックが極度に減少していた。アセトン抽出画分のHPLC分析および吸収スペクトル、MSスペクトル解析の結果、pcb2変異株ではクロロフィルでなく、ジビニルクロロフィルが蓄積していた。その原因遺伝子は、第5染色体の上腕の約190kbの範囲にマッピングされた。細胞内局在予測プログラムを利用し、葉緑体への局在が強く示唆される遺伝子について野生株と変異株の塩基配列を比較した結果、At5g18660で一塩基置換の変異が見つかった。この遺伝子はイントロンを持たず、コードされるタンパク質は417のアミノ酸で構成され、変異は29番目のグルタミンコドンを終止コドンに変えるナンセンス変異だった。相補性試験とアンチセンス形質転換体の表現型から、At5g18660がpcb2の原因遺伝子であることを確認した。この遺伝子産物は高等植物から光合成細菌にいたるまでの広い範囲で保存されていて、レダクターゼと低い相同性が見つかった。以上の結果より、PCB2の遺伝子産物はクロロフィル代謝経路の中で唯一不明であったジビニルプロトクロロフィリド8-ビニルレダクターゼであると考えられる。