抄録
セネセンスは生物にとって回避不可能な生理現象の一つであり,細胞内環境を大きく変える.グルタチオンS-トランスフェラーゼは一次代謝や二次代謝,シグナル伝達,ストレス代謝のような様々な細胞内イベントに関与する多機能タンパク質であり,セネセンスに関与する遺伝子の一つであることが示唆されている.しかしながら,セネセンス特異的なGST活性についての報告は少なく,セネセンス時のGSTタンパク質の機能についても未解明な部分が多い.今回,暗黒誘導にてセネセンス処理をしたオオムギ葉から得られた水溶性タンパク質画分を,疎水クロマトグラフィーにより分離したところ,セネセンス特異的なGST活性をもつフラクションが存在した.このセネセンス誘導GSTを精製し,その酵素学的性質を明らかにするとともに,トリプシンによるゲル内消化を行い,その内部配列を明らかにした.そしてオオムギのセネセンス葉のcDNAからGST遺伝子のクローニングを行った.得られた配列から,今回精製されたGSTが植物特異的なτクラスに分類されることが示された.これまでの報告で,τクラスのGSTは植物ホルモンのシグナル伝達において機能していることが示唆されている.そのため,今回精製されたGSTはセネセンスの促進あるいは抑制因子の一つとして機能していると考えられる.