抄録
クロロフィル分解の初期段階ではフィトールの加水分解に続いてMgの脱離反応が起こる.このステップにはMgデキレーターゼの関与が示唆されているが,その詳細は明らかになっていない.ダイコン(Raphanus sativusL.)子葉の粗抽出液のMg脱離活性を感度の高い人工の基質であるクロロフィリンを用いて測定したところ,いくつかの性質の異なる活性成分の存在が明らかになった.我々はこれらの成分のうち低分子の物質をMCS (metal-chelating substance),タンパク成分をMRP (Mg-releasing protein)と名づけ,実験を行った.この低分子の物質はタンパク成分の補欠分子ではないかという報告もあり,分画,添加および阻害剤による検討を行った.阻害剤の実験から,MCSとMRPはクロロフィリンを基質としたときに阻害剤に対して異なる応答を示すこと,さらにMRPはセネセンスによって誘導され活性が増加するが,MCSの活性はほとんど変化がないことが明らかになった.これらの結果から,MCSとMRPは独立した物質であり,異なる反応に関わるものであることが示された.MCSとMRPの基質特異性について調べたところ,MCSだけが天然の基質クロロフィリドaからのMg脱離能を持っており,MRPは持っていなかった.これらのことは,MCSとMRPは独立して存在し,MCSはセネセンスによって誘導されないが天然のクロロフィル分解過程のMg脱離反応を触媒する物質であることを示している.