抄録
デンプンは植物において最も重要なエネルギー貯蔵物質の1つである。緑葉の葉緑体では昼間に光合成で生成された糖が一過的にデンプンとして蓄積され、夜間にその分解が起こり非光合成組織に供給される。さらに、登熟期の穀類では胚乳組織において転流糖が貯蔵デンプンに転換、蓄積され、種子発芽の際に分解、利用される。このようにデンプン代謝の流れは植物における大動脈であるにもかかわらず、生きた細胞のプラスチドにおけるデンプン分解の機構についてはまだ多くの謎が残されている。α-アミラーゼはインタクトなデンプン顆粒に作用する唯一の酵素として知られている。我々は、イネにおける主要α-アミラーゼアイソフォームであるα-アミラーゼI-1の発現抑制および強発現する形質転換イネを作成し、デンプン蓄積に及ぼす影響を調べた。その結果、α-アミラーゼI-1発現の強弱によって緑葉のデンプン蓄積に変化が生じることが分かった。α-アミラーゼI-1は典型的な分泌性糖タンパク質として知られていることから、その細胞内局在性を免疫細胞化学的手法およびα-アミラーゼI-1/GFP融合タンパク質の発現・ターゲテイング解析により検討した。これらの結果は、α-アミラーゼI-1が確かにプラスチドに存在することを強く示唆した。本講演ではデンプン加水分解酵素の葉緑体デンプンへのアクセスを中心にイネ葉緑体におけるデンプン分解機構について議論したい。