抄録
アーバスキュラー菌根菌(arbuscular mycorrhizal fungi, AMF)は80%以上の陸上植物と共生関係を結ぶ土壌真菌である。本共生においてAMFと植物がどのようなシグナル物質によりお互いを認識するのか、その相互認識機構についてはほとんど明らかになっていない。植物とAMFの生産するシグナル物質はそれぞれbranching factor(BF)、Myc factor (MF)と呼ばれている。BFはAMFの宿主認識反応である菌糸分岐を誘導する物質で、根より分泌される脂溶性の低分子化合物であることが分かっている。MFについてはその存在自体が長らく謎に包まれていたが、最近、初期ノジュリン遺伝子発現を指標としたアッセイにより、MFが菌糸から分泌される分子量3500以下の物質であることが明らかになった。我々はこれらシグナル物質の単離・同定を目指して、ミヤコグサとAMF Gigaspora margaritaを用いて研究を行ってきた。最近、ミヤコグサの根分泌物からngオーダーで活性を示すBFを一つ単離した。また、初期ノジュリン遺伝子LjCbp1プロモーターの活性化を指標としたアッセイ系により、MFが胞子に含まれるメタノール可溶の脂溶性物質であることを明らかにした。本講演では、AMF共生におけるシグナル物質研究の現状について、我々の研究成果を中心に述べたい。