抄録
植物の環境応答を理解するためには,環境ストレスに対する適応反応のON/OFF制御に深く関わっているアブシジン酸(ABA)の生体内濃度調節機構についての知見が欠かせない.植物体内におけるABA不活化の初発酵素であるABA 8'-水酸化酵素は,生合成酵素と並んで生体内ABA濃度調節に重要な役割を果たすと考えられている鍵代謝酵素の1つである.本酵素の阻害剤や代謝抵抗性類縁体は,種々の植物の様々な生育段階における生体内ABA濃度の自在な制御を可能にし,ABAがストレス応答に果たす役割を生理学・遺伝学の側面から研究する上で強力な武器となり得る.そこで演者らは,ABA 8'-水酸化酵素の特異的阻害剤および水酸化抵抗性類縁体の開発を指向し,これまでに合成した多様なABAアナログを用いてABA 8'-水酸化酵素の基質特異性を精査した.その結果,ABA骨格を持ちながらABA生物活性を有さず且つ酵素との高い親和性を保持した基質構造を見出すことができた.また,水酸化に抵抗し拮抗阻害を誘導する官能基の位置と種類も明らかになった.本研究で得られた知見によって,既存のP450阻害剤の酵素特異性欠如という欠点を克服したABA 8'-水酸化酵素特異的阻害剤デザインが可能になると考えられる.本発表では,以上の知見を含め,現在行っている阻害剤開発について紹介する.