抄録
水の移動は水ポテンシャル勾配に依存していて,植物体内における水ポテンシャル勾配は主に蒸散と生長過程に関連して生じると考えられている。高等植物での水の流れは複雑な多細胞構造によって影響を受ける。根においての水吸収および溶質の吸収は三通りのルートを通ると考えられる。一つは,細胞の原形質膜の外側の細胞壁空間を通るアポプラストのルート,もう一つは細胞から細胞へ原形質連絡を介して流れるシンプラトのルートがある。三番目のルートとして,それらの中間で細胞を横切り液胞から液胞へ流れるルートがあり,そのとき水は原形質膜を二度横切り,隣り合った細胞の細胞壁も含めて細胞壁の層を二度横切る必要がある。一般に,アポプラスとのルートを通る水はカスパリー線で通ることができず,原形質膜を横切る必要があると考えられている。
小麦の幼苗をプレッシャーチャンバーへ装着した状態で水耕栽培し,HgCl2を加えた上で,葉の伸長速度の変化を観察し,同時に根における水の透過率を計測した。100μMのHgCl2処理では数時間の葉の生長阻害が見られたが,徐々に自然と生長は回復して水の透過率も回復した。この生長回復は葉から蒸散があるときのみ起こったことから,アポプラストのルートを通っての水の流れが葉の生長に貢献していると考えられた。また,水の流れと関連付けて,HgCl2処理下での水透過率の低下とアクアポリンとの関連についても考察した。