抄録
細胞の水透過率は、吸水・蒸散・生長などの植物体内の水の流れや、植物の保水機能に関わる重要な性質の一つである。成熟した植物細胞は、内部に巨大な液胞を発達させ、生命活動の中心である細胞質は、細胞膜と液胞膜に挟まれた狭い空間に位置している。このため、細胞膜と液胞膜の水透過率は、細胞質の水分バランスに直接影響を及ぼす。また、吸水・蒸散などにともなう細胞を横断する水輸送にも、細胞膜と液胞膜の水透過率が影響する。アクアポリンの発見がきっかけとなって、植物は細胞膜と液胞膜の水透過率をどのように調節し、体内水分条件を適切に維持しているのか?という点に関心が高まっている。そこで本研究では、植物組織から単離した個々のプロトプラストの水透過率を計測し、さらに細胞膜と液胞膜の水透過率を分離評価する手法を開発した(測定精度±10%以内)。ダイコン幼植物の根から単離したプロトプラスト全体の水透過率は、360 μms-1 (sd=90, n=10)、液胞膜単独の水透過率は590 μms-1 (sd=130, n=8) (ともに収縮時の水透過率)、であり、両者とも過去に報告された植物細胞の水透過率値の中では最も高いランクに位置づけられた。一方、細胞膜の水透過率も液胞膜に匹敵する高さであったが、条件によっては最大値の10%程度にまで低下することも明らかとなった。これらの結果にアクアポリンがどのように関与しているのか考察したい。