抄録
植物の水吸収と水の利用を巡る問題は、植物生理学的にも農学的にも、古くから関心が注がれていた。水と低分子化合物の膜輸送を担うタンパク質・アクアポリンの発見によって、この問題が分子機構という観点から扱えるようになり、多くの新しい知見が得られるようになった。著者たちは現在オオムギのアクアポリン遺伝子とその機能を研究している。オオムギは乾燥耐性、耐塩性が強く、水環境への応答はイネとは大きく異なる。したがってイネと対比させながら研究を進めることでアクアポリンの機能と発現制御の観点から、イネ科植物の水輸送制御の分子機構にも迫ることができるだろうと考えている。当初オオムギ根から同定した3つの原形質膜型アクアポリンの一つHvPIP2;1は、オオムギのアクアポリンの中でも最も発現量が多いものの一つであった。また塩ストレスに反応して発現が制御されていた。HvPIP2;1については(1)水輸送活性をもつアクアポリンをコードしていること、(2)強制的に高発現させると植物体の耐塩性が低下すること、(3)二酸化炭素の透過性も持つこと、を明らかにした。(2)と(3)は形質転換イネを用いた実験の結果である。(3)の結果から、アクアポリン活性の制御を通じて光合成速度が制御される可能性が示唆されている。現在、オオムギとイネの全アクアポリン遺伝子の同定をほぼ完了し、各アクアポリンの発現と機能の解析をスタートさせたところである。