抄録
Particle induced X-ray emission(PIXE)法はサイクロトロンを用いた多元素同時分析法である。軽元素の影響を受け難い特性を活かし,生体試料中の中・重元素の検出を行う方法を特にBio-PIXEと呼び,日本アイソトープ協会仁科記念サイクロトロンセンターにて全国共同利用研究として利用可能である。試料をそのまま分析に供する事も可能だが,より正確な定量分析には,試料調製法の確立が重要である。本発表では,Bio-PIXE法の測定原理を紹介すると共に,微細藻細胞を試料とする場合を例に,硝酸湿式灰化法を用いた試料調製および分析結果について述べる。
試料として海水培地で培養された3種の微細藻類種 (CaCO3結晶の殻を持つハプト植物門円石藻Emiliania huxleyi、非石灰形成ハプト藻Isochrysis galbanaおよび緑藻Dunaliella tertiolecta) を用いた。特に,E. huxleyiはその生育に微量元素セレン (Se) を要求することから,細胞内のSe含量に注目した。その結果,14元素について精度の高い測定値を得た。E. huxleyiの細胞内Se濃度は培地中 (10 nM) の1600倍に当たる16.0 μMであり,他2種の約5倍の高いSe蓄積能を有する事が分かった。更に,E. huxleyiはMnについてもその他2種の10倍以上の蓄積能を有し,Se欠乏状態ではS及びMnの細胞内含量を増加させることを明らかにした。Bio-PIXEは極微量の試料を簡便な操作で測定できるため,このような生理学的研究への応用に適している。