抄録
アブラナ科植物の自家不和合性における花粉-柱頭間の自他識別は、柱頭の細胞膜上の受容体型キナーゼSRKと花粉表層タンパク質SP11のSハプロタイプ特異的な相互作用を介して行われていることがこれまでに明らかとなっているが、自己花粉の吸水・発芽阻害に至るSRK以降の情報伝達系に関しては依然未解明である。近年、我々は自家和合性変異株Yellow salsonの解析から、膜結合型キナーゼMLPK(M-locus protein kinase)を同定したが、その機能については明らかとなっていない。
今回我々は、MLPKが転写開始点の異なる2つの転写産物(MLPKf1、MLPKf2)により翻訳されていることを見出した。また、タバコ培養細胞での一過的発現系を用いることによって、MLPKf1はN-ミリストイル化を介して、また、MLPKf2はN末端の疎水性領域を介してと、それぞれ異なる機構で膜に結合していることを示した。
さらに、MLPKf1のミリストイル化モチーフに変異を入れたコンストラクト(MLPKf1G2A)を構築し、MLPK欠損株の乳頭細胞に一過的に発現させることで、野生型MLPKを発現させた場合とは異なり、MLPKf1G2Aには、MLPK欠損株を相補する活性がないことを示した。以上の結果は、MLPKが自家不和合性の情報伝達系において機能するためには、MLPKの膜局在性が必須であることを示唆する。