抄録
葉緑体遺伝子の転写には、T7ファージ型(NEP)と、バクテリア型(PEP)の2種類のRNAポリメラーゼが関与することが知られている。そのうち、主に光合成遺伝子の転写に関わるPEPはコア酵素とシグマ因子から構成されているが、コア酵素を構成するサブユニットが葉緑体ゲノムにコードされている一方で、プロモーター認識に関わるシグマ因子は核ゲノムにコードされており、核から葉緑体への情報伝達の一端を担っていると考えられる。シロイヌナズナには、6種のシグマ因子(SIG1~SIG6)が存在しており、各シグマ因子の役割分担が葉緑体遺伝子の転写制御において重要であると考えられる。
現在我々は環境ストレス下におけるシグマ因子の役割について研究を進めており、SIG5の発現が様々なストレスにより誘導されることを既に示しているが、本研究ではそれに加えてSIG6の発現が低温ストレス特異的に誘導されることを見出した。SIG6遺伝子へのトランスポゾン挿入変異株であるsig6-2株では、野生株と比較して低温条件に移行した際に葉の黄化と生育の阻害が観察された。これらの結果から、SIG6は低温ストレス特異的に葉緑体遺伝子の転写に関わるシグマ因子である可能性が示唆された。現在、低温ストレス下でSIG6に転写される葉緑体遺伝子を特定するためDNAマイクロアレイ解析を進めており、その結果についても併せて報告する。