抄録
葉緑体には独自のゲノムが存在し、植物細胞の分化や外部環境に即した遺伝子発現制御がなされている。葉緑体の転写装置であるRNAポリメラーゼにはバクテリア型のPEPとT7ファージ型のNEPが存在する。そして、光合成遺伝子の転写は基本的にPEPによるが、このPEPの活性に必須な核コードシグマ因子には複数種が存在し、状況に応じた遺伝子活性化を行っていると考えられる。シロイヌナズナでは6種のシグマ因子(SIG1-6)が同定され、機能解析が進められている。
アブラナ科のシロイヌナズナでは、登熟期種子中葉緑体の機能が炭素代謝・脂質合成に重要である。今回我々は種子葉緑体の機能に着目し、この機能構築に関わるシグマ因子の探索を行った。その結果、SIG2欠損株(T-DNA挿入変異;sig2-2)とSIG6欠損株(トランスポゾンAC/DS 挿入型変異;sig6-2)において、登熟期種子の緑化が著しく阻害されていることを見いだした。in situハイブリダイゼーションの結果によれば、SIG2とSIG6は登熟期種子胚全体で発現している。一方、登熟初期種子胚の電子顕微鏡観察により、sig6-2 株で葉緑体チラコイドが1-2層しか発達していないのに対し、sig2-2株では野生株と同様であることが判明した。種子中トリアシルグリセロール含量を測定した結果、sig6-2株では約3割、sig2-2株では約1.7割の低下が観察された。以上の結果は、種子葉緑体の機能構築におけるSIG2とSIG6の異なる側面での重要性を示すものである。