抄録
葉緑体分裂には、進化的に保存されたバクテリア様分裂因子群と真核生物特有のダイナミン様タンパク質が関わる。前者のバクテリア様因子群はFtsZ、MinD、MinEの相同因子を含み、特に分裂初期に重要であると考えられている。今回我々は、シロイヌナズナの核コード葉緑体MinE(AtMinE1)の役割について、遺伝子過剰発現系統および発現抑制系統の葉緑体観察により解析した。
AtMinE1の転写産物を野生型植物の約120倍蓄積した系統は、AtMinD1突然変異体(arc11-1)と同様の表現型を示し、葉肉細胞中に巨大葉緑体からミニ葉緑体に至る異型葉緑体を含んでいた。AtMinE1転写産物を野生型植物の1/4程度含むアンチセンス系統は弱い分裂阻害の表現型を示した。AtMinE1過剰発現系統の緑色組織にはマルチアレイ型またはダンベル型の分裂葉緑体が存在し、さらにダンベル型の分裂葉緑体は等分裂を行うものと不等分裂を行うものとが存在した。これらの結果は、AtMinE1が葉緑体の分裂位置決定に関わり、正常な葉緑体中央分裂は中央赤道面以外での分裂面形成阻止によって行われることを示唆した。さらに本発表では、AtMinE1過剰発現系統における葉緑体内部微細構造とFtsZリング形成状況の解析結果についても報告する。