抄録
気孔の閉鎖運動に先立って、細胞質Ca2+濃度の一過的上昇が起こることが知られている。一般に、植物細胞のCa2+シグナリングには、細胞外からの流入、または小胞体や液胞などの細胞内Ca2+ストアからの放出が関係する。今回我々は、葉緑体チラコイド膜に局在するCa2+結合タンパク質CAS(Calcium sensing receptor)が、細胞外Ca2+が誘導する気孔閉鎖運動に関与していることを報告する。一回膜貫通タンパク質であるCASは当初、細胞膜に存在する細胞外Ca2+センサーとして報告された。しかし我々は、プロトプラスト一過的発現系および35Sプロモーターによる恒常的発現形質転換植物を使って、CASとGFP融合タンパク質の局在を詳細に解析し、CASが葉緑体チラコイド膜に特異的に存在するタンパク質であることを明らかにした。さらにCASのT-DNA挿入ノックアウト変異体では細胞外Ca2+依存的な気孔閉鎖機能が失われ、またCAS過剰発現体はわい性を示した。CASは光合成真核生物に広く存在する植物特異的なタンパク質で、その発現は葉緑体の発達と強く相関している。さらに、以前にCASのアンチセンス変異体では孔辺細胞のCa2+オシレーションが見られなくなることが報告されている。これらの結果は、葉緑体チラコイド膜に局在するCASが気孔閉鎖運動において何らかの重要な役割を果たしていることを示唆している。