抄録
植物ゲノムには35アミノ酸モチーフを繰り返し持つpentatricopeptide repeat (PPR)蛋白質をコードする大きな遺伝子ファミリーが存在する。同遺伝子ファミリーはシロイヌナズナで460以上の遺伝子メンバーからなり、全PPR蛋白質の65%はミトコンドリアに15%は葉緑体に局在することが予想されている。これに対して、細菌、シアノバクテリア、藻類にはPPR蛋白質遺伝子がないが、初期陸上植物であるヒメツリガネゴケ(コケ植物)に同遺伝子ファミリーが存在する。ヒメツリガネゴケの全ゲノム配列データベースを検索して、これまでに92個のPPR蛋白質遺伝子を見いだした。このうち葉緑体に局在すると予想されるのは13個であった。我々はコケPPR蛋白質の細胞内局在性、遺伝子発現レベル、遺伝子破壊株における葉緑体遺伝子の発現に関する網羅的な解析を行っている。今回、葉緑体PPR蛋白質の機能を明らかにするため、遺伝子破壊株を作製しその性質を調べたので報告する。PPR531-11遺伝子破壊株においては、野生株よりもコケ原糸体の生長が顕著に遅延すること、及び茎葉体の葉緑体の数と形状に大きな差異を見いだした。このことから、PPR531-11が葉緑体の形成と細胞の成長に関与していることが強く示唆された。またPPR531-11遺伝子破壊株においては、プロテアーゼをコードするclpP遺伝子の前駆体RNAのプロセシングやスプライシングが顕著に低下していることを見いだした。