抄録
液胞プロセシング酵素(VPE)が病原性毒素であるフモニシンB1(FB1)によって誘導される細胞死に関与しているか調べるために,シロイヌナズナに存在する4つのVPE遺伝子を破壊した変異体(VPE-null)を作製した.野生型の葉にFB1を処理すると,液胞の崩壊を伴う細胞死が誘導されるが,一方VPE-null変異体では抑制された.さらに, γvpe変異体において病斑形成が抑えられたことから,γVPEはFB1が誘導した細胞死において主に働いていることが示唆された.興味深いことに,FB1が誘導した病斑形成はVPE阻害剤とカスパーゼ-1の阻害剤の両方に抑制された.そこで,γVPEを発現し,動物のカスパーゼ-1と酵素学的に比較して調べたところ,VPEはカスパーゼ-1とアミノ酸配列上の類似性はないが、酵素化学的な特徴を共有していることがわかった.以上の結果から,カスパーゼ-1活性を示すVPEはFB1によって誘導される細胞死に関与することを証明した.我々はウィルスによる過敏感細胞死にVPEが関与することを明らかにしており (2),その結果と考え合わせると,病原体は自らの生存戦略として植物の抵抗性反応の一つである細胞死機構を利用していると考えられる.
(1) Kuroyanagi et al., 280, 32914-32920 (2005) J. Biol. Chem.
(2) Hatsugai et al., 305, 855-858 (2004) Science