抄録
近年、細胞質型分子シャペロンであるHsp90が、抵抗性遺伝子の翻訳産物と相互作用し、その安定化に寄与していることが明らかとなってきた。実際、Hsp90の発現量を低下させた植物体では、抵抗性遺伝子依存的な防御反応が抑制される。N遺伝子によって認識されるタバコモザイクウイルス(TMV)の非病原力遺伝子産物p50をN遺伝子を有するタバコに発現させると、過敏感反応(HR)様応答が起こり、細胞死を引き起こすことができる。TMVおよびp50による細胞死は、Hsp90の特異的阻害剤であるゲルダナマイシン(GDA)処理によって抑制された。また、動物のアポトーシス誘導因子であるBaxは、植物においてもHR様細胞死を引き起こすが、この細胞死はGDAによって阻害されなかった。TMVやp50による細胞死は、病害応答性MAPKであるWIPKやSIPKの活性化を伴うが、Baxによる細胞死ではこれらMAPKの顕著な活性化は認められなかった。さらに、WIPK、SIPK両遺伝子の発現を抑制したタバコにp50およびBaxを発現させたところ、p50による細胞死は抑制されたが、Baxによる細胞死は抑制されなかった。以上のことから、p50による細胞死はHsp90、WIPKおよびSIPKの活性化を介しており、Baxはそれらを介さずに細胞死を誘導しているものと考えられる。