抄録
オートファジーは,栄養飢餓等に伴って細胞質成分を液胞に輸送して分解する細胞内分解システムである.これまで植物オートファジーの研究は主に電子顕微鏡等に依拠した形態学的な観察をもとに解析が進められてきた.しかし形態学的解析の限界からそれらは現象論にとどまり,オートファジーの重要性および分子メカニズムについてほとんどわかっていなかった.近年のゲノムワイドな解析により,酵母で発見されたオートファジーに必須なATG遺伝子のホモログが植物にも存在することが明らかとなったが(1),植物においても同様の役割を担っているか確かでなかった.
今回,V-ATPaseの阻害剤であるコンカナマイシンAをシロイヌナズナの葉に処理することにより,葉において初めてオートファジーをモニターすることに成功した.その結果,ATG遺伝子破壊変異体の葉はオートファジー能を欠損していることが示され,葉におけるオートファジーが葉細胞の生存力に重要であることが明らかとなった.オートファジー能を欠損した変異体は,窒素飢餓条件で根の伸長が阻害され,富栄養条件下でさえも老化が早まった(2).加えて,病原菌抵抗性反応における過敏感反応細胞死が早く起こった.これらの結果から,高等植物においてオートファジーが果たす生理的役割について考察する.
(1) Hnaoka et al. (2002) Plant Physiol., 129, 1181-1193.
(2)Yoshimoto et al. (2004) Plant Cell, 16, 2967-2983.