抄録
胚軸からの不定根形成を指標形質として単離したシロイヌナズナの温度感受性突然変異体lignescens(lig)は、制限温度下でリグニンの異常蓄積を示す点に特徴がある。本研究ではリグニン合成制御機構解明のためlig変異体の解析を行った。lig変異体は許容温度の18℃では正常に生育するが、制限温度の28℃では根の成長が著しく抑制された。リグニン定量の結果、28℃処理後2日目からリグニンの増加が示され、リグニン染色により根端付近でグアヤシルリグニンの異常蓄積が認められた。さらに、lig変異体におけるリグニン異常蓄積の分子機構に関する知見を得るため、リグニン合成関連遺伝子としてフェニルアラニンアンモニアリアーゼをコードするAtPAL1、シンナミルアルコールデヒドロゲナーゼをコードするAtCAD-D、シンナモイルCoAリダクターゼをコードするAtCCR1とAtCCR2、及び数種のR2R3-MYB等の発現解析を行った。lig変異体を28℃で処理すると、AtPAL1、AtCAD-D、AtCCR2の発現が増加した。また、エチレン合成阻害剤のAVGで処理することによりlig変異体における28℃でのリグニンの異常蓄積が抑制された。一方、染色体マッピングと塩基配列解析により、lig変異体が未報告のセリン/スレオニンプロテインキナーゼ遺伝子にミスセンス突然変異をもつことが見いだされた。これらの結果から、リグニン合成制御におけるLIG遺伝子の役割について考察する。