抄録
シロイヌナズナの花弁はがく片と雄しべの間に形成される。花弁の成熟過程は大きく3つの段階にわけることができる。1) がく片原基と雄しべ原基の基部の間に花弁原基が形成される。2) 雄しべ原基の上部とがく片原基の間隙をがく片原基に沿って伸長する。3) その後、開花にともない急速に伸長し成熟する。これらの過程について詳細な観察は報告されているが(Smyth et al., 1990)、花弁の成熟に関わる分子メカニズムはほとんど明らかになっていない。われわれは花弁の形態を指標に突然変異体のスクリーニングをおこない、花弁の成熟過程に異常がみられるfolded petals (fop) 突然変異体を単離した。fopの花弁は上で示した2番目の過程から折れ曲がっていた。花弁の表皮細胞におけるtransition region(表皮細胞の形が基部の細長い形から頂端部での丸い形へと徐々に変化する領域)がfopでは観察されず、花弁の屈曲はこの部分でおこっていた。屈曲部を伸ばして成熟した花弁の大きさと形を観察すると、野生型の花弁と顕著な差がみられなかった。また、HISTONE 4の発現解析から花弁の発生における細胞分裂活性は正常であると考えられた。クローニングの結果、FOPは植物特異的な新規のタンパク質をコードすることがわかった。発現解析の結果もあわせて報告し、花弁の成熟過程にFOPがどのように関わっているかについて考察したい。