抄録
シロイヌナズナのSHEPHERD (SHD) 遺伝子は、小胞体に局在するHsp90型の分子シャペロンGRP94をコードしている。SHD遺伝子の突然変異体のうち、Ws系統のshd-1突然変異体はclavata (clv1, 2, 3) 突然変異体に類似の表現型を示すが、Columbia (Col) 系統のshd-2突然変異体はclv型の表現型を示さない。さらに、shd-1とColを交配したF2では、shd変異をホモに持つ個体でも、clv型を示すものと示さないものに分離する。以上のことから、Wsにはshdの表現型を増強してclv型にするエンハンサー変異が存在すると推測し、そのマッピングを行った。その結果、エンハンサー変異はCLV2遺伝子と強く連鎖することがわかった。シーケンスの結果、ColとWsのCLV2では7個のアミノ酸置換を伴う34個の一塩基多型が存在し、ColのCLV2をshd-1 (Ws) へ導入するとclv型の表現型が回復した。従って、ColのCLV2はSHD非存在下でも機能するが、WsのCLV2の機能発現にはSHDが必要なことが示された。
CLV2には系統間のアミノ酸置換が非常に多く蓄積していることは知られていたが、以上の結果より、そのような変異も分子シャペロンSHDの作用によって許容されている可能性が示唆された。Hsp90の作用により系統間で多数の潜在変異が蓄積している可能性は以前から提唱されていたが、CLV2がその実例の1つなのではないかと我々は考えている。