抄録
植物の低リン適応に関わる遺伝子は、その多くが地上部のリンレベルが高いときには根部のリン濃度が低くても発現が抑制されることから、地上部からの長距離シグナルによる分子制御の存在が指摘されているが、その発現制御機構の詳細は不明のままである。演者らはこれまでに、低リン条件で育つイネにおいて強く発現が誘導される機能未知遺伝子OsPI1を単離した。低リン条件で迅速に発現が誘導されるOsPI1は低リン適応で重要な役割を果たしていると考えられる。本研究は、OsPI1の発現様式を詳しく調査することを目的とした。リン欠乏条件で水耕栽培したイネを用いて、再びリンを与える再施与実験と、根を半分に分けてその一方にリンを与える根分け実験を行い、経時的に地上部と根部に分けて採取して全リン濃度、無機リン酸濃度、OsPI1発現量を分析した。再施与実験ではリンは速やかに吸収され、それに伴いOsPI1発現量も減少した。根分け実験では、リンを与えた根ではリンは速やかに吸収され、地上部のリン濃度が徐々に増加するのに伴って、これらの器官におけるOsPI1発現量が減少した。一方、リンを与えなかった根では12時間以内に有意な無機リン・全リン濃度の増加は認められず、OsPI1の発現量も高いレベルに維持された。これらの結果から、OsPI1は地上部からの長距離シグナルによる発現制御だけでなく、局所的なリンレベルによる発現制御も受けることが示唆された。