抄録
我々は蘚苔類の乾燥耐性機構を調べるため、異なる水環境に生育する数種の蘚苔類を用いて水分含量変化に伴う光合成諸活性の変化を調べてきた。その結果、乾燥耐性種は乾燥により光合成活性が失われた際、光化学系II反応中心(PSIIRC)活性も失われること、一方非乾燥耐性種は、光合成活性が失われた後もしばらくPSIIRC活性が残っていることが明らかになった。乾燥時PSIIRCを停止させることは光合成系の保護に重要であり、耐性種はPSIIRCを失活させることで光阻害を防いでいるといえる。しかしSorbitol溶液を用い、細胞の脱水レベルを調節した場合、乾燥耐性種においても光合成活性が失われているにもかかわらずPSIIRC活性が残っている状態が存在した。この状態で強光の影響を調べたところ、暗所に置くだけでは解消されない非光化学的消光(NPQ)が起こり、PSIIは実質的に失活していることが判明した。
このNPQについてさらに調べたところ、蘚苔類のNPQには2成分あり、キサントフィルサイクルによらないNPQが存在することが判明した。また、非耐性種では半乾燥状態でNPQが阻害されたが、耐性種ではNPQが働くことが分かった。このキサントフィルサイクルによらないNPQは乾燥時に重要なものではないかと考えられる。本学会ではこのNPQの性質について詳しく報告する。