抄録
1996年にパラオ諸島の群生ホヤからChl dを主要色素として酸素発生型光合成を行う海洋原核藻類Acaryochloris marina (A. marina)が発見された。Chl dはChl bと同様に、Chl aの酸化によって生合成されると推定されているが、その詳細は未だ不明である。
最近我々は、プロテアーゼの一種パパインが含水アセトン中でChl aをChl dに変換することを偶然発見した。Chl a → Chl dなる変換では、Chl aの環のビニル基(-CH=CH2)がC=C結合の切断という過酷な反応を伴ってフォルミル基(-CHO)になる必要がある。ところが、Chl aにはC=C結合が多数存在するため、通常の酸化方法ではこれらのC=C結合も開裂する恐れがある。したがって、パパインによるChl a → Chl d変換は非常に特異な反応といえる。
本研究では、パパインによるこの酸化反応の基質特異性を検討するため、Chl aの代わりに環1にフォルミル基を持つChl bと、Mgの外れたPhe aを用いて実験を行った。
その結果、パパインによるChl b → 3-formyl-Chl b変換およびPhe a → Phe d変換は非常に起こりにくいことを明らかにした。このことは、A.marinaにPhe dと3-formyl-Chl bが存在しないことと関係があるかもしれない。a型光合成からd型光合成への生物進化において、パパインのような酵素によるChl a → Chl dなる化学進化が起きたのだろうか。