抄録
多くの光合成生物においてクロロフィルa の基本骨格クロリン環は、ポルフィリンD環がニトロゲナーゼと類似した光非依存型プロトクロロフィリド還元酵素によって還元されて形成される。バクテリオクロロフィルa は、クロリンB環がさらに還元されたバクテリオクロリン環を基本骨格とする。クロリンB環還元には、ニトロゲナーゼと類似性を示す3つの遺伝子bchX、bchY、bchZが関与することが遺伝子破壊株の形質から推察されているが、生化学的な同定には至っていない。今回、私たちは、Rhodobacter capsulatus からアフィニティタグを利用して精製したBchXとBchY-BchZをもちいてクロロフィリドa のB環還元の再構成を試みたので報告する。BchXとBchY-BchZを、クロロフィリドaを基質とし、ATPとATP再生系、ジチオナイトを含む反応液にて嫌気条件下で反応させた。その結果、クロロフィリド a が減少し、新たに730nm付近に吸収ピークをもつ色素が生成した。LC-MS解析で得られたこの色素の分子量616の値は、クロロフィリド a のB環が還元された色素3-ビニル-8-エチルバクテリオクロロフィリド a と一致した。この結果は、バクテリオクロロフィル生合成系では、ポルフィリンD環還元だけでなくその対面のB環の還元にもニトロゲナーゼ類似酵素が関与していることを示している。