抄録
シロイヌナズナのオーキシン非感受性突然変異体massugu2(msg2/iaa19)は、成体での表現型異常はほとんど見られないが、野生型と比べて稔性が低下する。しかし人工的に自家受粉させると正常に種をつける。そこで、花器官の成長を観察したところ、野生型の花では開花直前に雄蘂が雌蘂より急速に伸長するようになる結果、葯が雌蘂の柱頭を追い越し、その時受粉を成立させているのに対し、msg2では雌蘂を追い越す雄蘂がほとんど見られなかった。つまり、msg2の稔性低下は花粉や胚珠の異常によるものではなく、雄蘂と雌蘂の伸長のタイミングが合わないために受粉機会が減少することが主な原因になっていると思われる。雄蘂は花糸の伸長によって伸びる。花糸の表皮細胞列の細胞数を数えたところ、野生型、msg2共に、花糸の長さにかかわらず細胞数はほぼ一定であったので(野生型:26.7±1.7、msg2:26.3±1.5)、細胞数の増加ではなくて、個々の細胞の伸長によって花糸が伸びることがわかった。さらに、花におけるMSG2の発現を調べるためMSG2 promoter::GUS株でGUS活性を観察したところ、花でのMSG2プロモーター活性は伸長が加速され始めた後の雄蘂の花糸でのみ見られた。このことから、MSG2が受粉にかかわる花糸の細胞伸長の制御に関与していることが示唆された。