抄録
多細胞生物の器官の大きさは、器官に固有な機能が発揮される上で極めて重要な要素である。現在全く不明である器官サイズの決定機構を明らかにするため、我々は葉の形態形成における「補償作用」という現象に注目した研究を進めている。補償作用とは、葉原基における細胞増殖活性が低下し、器官を構成する細胞数が減少すると、個々の葉細胞が大型化する現象である。典型的な補償作用を示すシロイヌナズナのangustifolia3 (an3) 変異株では、葉の細胞数および細胞サイズがそれぞれ野生株の30%, 150% を示す。今回、細胞増殖活性と補償作用の誘導との関係を詳細に調べるため、アンチセンス法によりAN3 の発現を様々なレベルに低下させた形質転換植物の解析を行った。その結果、細胞数がある閾値を超えて大幅に減少してはじめて、補償作用が誘導されることが判明した。このような閾値の存在から、細胞数をモニターする未知の機構の存在が推定される。そこで次に、an3に他の変異を重ねることで、葉細胞数の回復が補償作用に与える効果を解析した。興味深いことに、葉原基の細胞増殖期間を延長する作用をもつgrandifolia1-D 変異と、葉縁部での細胞増殖を亢進させるjaw-D 変異では、an3 における補償作用に与える影響が大きく異なることが明らかになった。その他の補償作用を示す変異株についても同様の解析を行っており、その結果も合わせて葉の細胞数の認識機構について議論したい。