抄録
植物では導入した遺伝子やそれと相同な内在性遺伝子の発現が不活性化される現象が知られている。これはジーンサイレンシングと呼ばれ、導入遺伝子の染色体上への挿入位置、コピー数の増加、反復・欠失構造の形成、mRNAの過剰蓄積などが原因とされている。しかし、これらの複数要因が同時に想定される形質転換体を用いた解析では、何がサイレンシングのトリガーかを明らかにすることは困難である。
我々は、反復や欠失を伴わないシロイヌナズナシングルコピー形質転換体(pBI121)を取得し、コピー数だけを増加させる解析を行った。掛け合わせにより4遺伝子座にヘミでCaMV35S(cauliflower mosaic virus)- GUS(β-glucuronidase)遺伝子を持つラインを作出し、その自家受粉後代を解析したところ、1から5コピーまではコピー数に相関するGUS活性を示したが、6、7コピーではGUS活性は検出されず、サイレンシングが引き起こされた。このサイレンシングは、GUS smallRNAやCaMV35S-GUS遺伝子領域に限定的なDNAメチル化を伴っていた。さらに経時的な解析の結果、サイレンシングは播種後4週間目で引き起こされ、GUS活性を有する播種後2週間目ではDNAのメチル化は低レベルであった。