抄録
trans-ゼアチン(tZ)はオーキシンと共に植物細胞の増殖・分化を誘導するサイトカイニンの一種である。近年、サイトカイニン生合成経路の解明が進んだ結果、シロイヌナズナ芽生えのtZ型のプレニル側鎖は主として色素体のメチルエリスリトールリン酸(MEP)経路から合成されることが示された。さらに、このMEP経路を介したtZ生合成経路におけるプレニル側鎖の水酸化酵素はオーキシンにより負の調節を受けることが明らかになった。また、cis-ゼアチン(cZ)型のプレニル側鎖は細胞質のメバロン酸(MVA)経路から主に合成されるが、このcZ型の酵素的なシス−トランス異性化によってもtZ型が一部合成されることが示されている。これらの事実から、植物におけるtZ型サイトカイニン生合成の主要経路はオーキシン濃度などによって変動する可能性が考えられる。一方、タバコBY2細胞など多くの培養細胞が培地へのオーキシンの添加を必要とするのに対し、サイトカイニンには要求性を示さない。この様な高オーキシン濃度条件下で生育される培養細胞のサイトカイニン生合成経路は野生型植物の経路と異なる可能性があるが、これについてはMEP経路発見以前の研究報告が殆どで十分に解明されていない。本研究においてはシロイヌナズナT87細胞やタバコBY2細胞をモデルにサイトカイニン生合成経路の解析を進めており、今回はそれらのトレーサー実験の結果を報告する。