抄録
近年、ニコチンアミド補酵素群(NAD)のエネルギー伝達系における機能に加え、タンパク質修飾やシグナル伝達経路における機能が明らかになってきたが、未だNADの生合成、代謝経路についての知見は少ない。酵母や動物ではNADの生合成経路はde novo経路とsalvage経路の2経路が存在し、両経路において働く鍵酵素としてNMNATが知られている。我々のグループではシロイヌナズナのNMNATはシングルコピー遺伝子として存在する事を見出し、その大腸菌組換えタンパク質はin vitroにおいてATP依存的にN(a)MNからN(a)ADを合成する活性を持つ事を明らかにした。また、T-DNA挿入系統から選抜したNMNATの破壊株(mgm)では野生型と比較して種子収量が40-50%低下しており、遺伝学実験の結果からmgmは配偶体型の雄性不稔系統であることが示唆された。花粉中のNAD量は低下しており、in vitro花粉管伸長試験では葯半数の花粉管で発芽後の伸長に異常が観察された。in vivoにおいても同様の結果を示した事から、NAD欠乏による花粉管伸長の異常が雄性不稔の原因と考えられた。さらに花粉管伸長時にNADの添加濃度に応じた応答を示した事から、花粉管伸長過程ではNADが必須である事が明らかとなった。