抄録
シロイヌナズナの登熟種子の胚は,3層の内珠皮と2層の外珠皮に覆われている.種子の登熟の最終過程で内珠皮第2・3細胞層は,細胞壁を折畳む形で残して消滅することから,複数の細胞層由来の細胞壁を重ねることで,より強固な種皮の形成に寄与しているものと考えた.この過程で,種皮形成のためのプログラム細胞死が起きていること,また,このプログラム細胞死に液胞プロセシング酵素(δVPE)が関与していることを最近報告した(1).今回,この内珠皮細胞層の細胞死の分子機構の解明を目的として,δVPEと共発現していると考えられる因子を探索した.δVPEは細胞死直前の内珠皮第2・3層で限定的に発現するという特徴的な性質を持っている.この性質を利用して,シロイヌナズナDNAマイクロアレイデータベースであるATTED(Arabidopsis thaliana trans-factor and cis-element prediction database)によりδVPE様の発現パターンを示す因子を網羅的に探索した.それら候補因子のそれぞれについてRT-PCRにより種皮に特異的に発現しているものを選抜した.得られた因子は,種皮形成のための内珠皮の細胞死においてδVPEと協調的に働いている可能性が考えられる.
(1) Nakaune et al. (2005). Plant Cell. 17, 876-887.