抄録
植物は過剰な光エネルギーに対する防御機構を数多く備えている。これらの防御機構の中には、過剰還元力をミトコンドリアへ輸送し呼吸鎖で酸化する経路も含まれる。しかし、その経路の実際の葉内での貢献度や詳細なメカニズムは明らかになっていない。これまでの研究で、呼吸鎖の中でもATP合成と共役しないシアン耐性経路(AOX)が過剰還元力の散逸にとりわけ重要な働きを担っていることが示唆された(Yoshida et al. 2006)。そこで、この可能性を確かめるため、光阻害回避系の一部が欠損した突然変異株を用いて光ストレス下での呼吸系を調べた。もしAOXが光阻害回避系として機能しているならば、変異株でその欠損を補償するためにAOX量や活性が増加することが期待される。材料として、系Iサイクリックの突然変異株、D1タンパク分解酵素であるFtsH2を欠損した斑入り変異株のシロイヌナズナを用いた。これらの変異株は葉緑体内の主要な光防御機構を欠損しており、実際に強光処理によって野生株より顕著な光阻害が見られた。また、光阻害を受けていた変異株において、AOXに依存した呼吸速度が特異的に増加していた。この結果は、AOXが過剰還元力のシンクとして機能し、光阻害の緩和に貢献していることを示唆している。今後、タンパク量や活性状態など、より詳細にAOXの挙動を追っていく予定である。