抄録
冷温帯域に生育する落葉広葉樹であるブナは、その林相や更新状態が太平洋側と日本海側で大きく異なっている。この太平洋型および日本海型のブナ稚樹を、明所(相対照度40%、直射光が連続して1日数時間入射)と暗所(相対照度10%、直射光の入射はほとんどない)に移して生育させたところ、明所で生育させた日本海型ブナでのみ葉の色が黄色味を帯びる現象がみられた。これら太平洋型と日本海型ブナを8月に採取し、葉の光化学系特性を各処理間で比較した。明所・日本海型ではD1タンパク量が低下し、その結果Fv/FmやETRも低下した。また、in vivoでのP-700測定から、intersystem electron pool sizeが大きく、循環型電子伝達によるP-700の還元が遅かったが、明所・太平洋型ではETRも高く維持され、intersystem electron pool sizeが小さく、循環型電子伝達によるP-700の還元は速かった。さらに、チラコイドを抽出し蛍光誘導期現象を測定したところ、明所・太平洋型では系IIαセンターの割合を増加させることで強光環境下に順化するのに対し、日本海型ではその能力が弱いことが示された。これらの結果から陰樹であるブナは、光化学系の強光順化能の違いにより、太平洋型では強光環境下でも順化する高い能力を備えているが、日本海型では順化能が低く、継続して入射する太陽光により強光阻害が起き、葉の寿命も短くなっていたと考えられる。