抄録
植物細胞は核ゲノム以外に細胞内共生に由来する色素体とミトコンドリアにゲノム (オルガネラゲノム)を持つ。オルガネラゲノムは、大半の植物種で雌性配偶子(胚珠)から遺伝する (母性遺伝する)が、両性遺伝する植物種も報告されている。高等植物の雄性配偶子(花粉)は、栄養細胞と雄原細胞から構成される。成熟花粉においてオルガネラDNAをDAPI染色により検出すると、両性遺伝型の雄原細胞にはドット状のシグナルが観察されるが、母性遺伝型の雄原細胞ではシグナルは観察されない。このように、母性遺伝型の花粉では、発生過程におけるオルガネラDNAの消失が細胞レベルで知られており、これがオルガネラDNA遺伝の重要な分子機構の1つであると考えられている。また、栄養細胞のオルガネラDNAも通常のDAPI染色では検出されないので、オルガネラDNA量は花粉において厳密にコントロールされているはずである。我々は、オルガネラの母性遺伝機構及びDNA代謝機構を分子レベルで明らかにする目的で、シロイヌナズナ(母性遺伝型)とタルウマゴヤシ(両性遺伝型)をモデル材料として花粉におけるオルガネラDNAの挙動に異常を示す変異体の単離を目指している。現在までに得られた花粉の観察結果、遺伝解析およびこれらの進展状況について報告する。