抄録
植物葉の老化は、クロロフィルが崩壊し、光合成活性が低下することと定義される。一方、このような目に見える変化に先行して起こる葉緑体の変化を、老化の開始と考えることも可能であり、その際に発現する老化関連遺伝子も多数報告されている。しかし、生育が完了した葉が枯死に至るまでの過程やこの期間の葉の役割についての研究は少なく、未解明の点が多く存在する。我々は、シロイヌナズナの本葉の生育・老化過程における葉緑体の観察を経時的に行い、その形態が葉の展開中から枯死に至るまでに大きく変化している事を観察した。展開中のロゼット葉で観察される典型的な円盤型葉緑体は、各々の葉が最大サイズに達した頃を境に、やや波打ったラメラ構造を持つ変形葉緑体に変化し始めた。変形葉緑体は、植物体が種子を付ける8週頃には全ての緑色葉で観察された。電子顕微鏡により、チラコイド膜の配向性が失われ、グラナが緩やかなカール状に変形した微細構造が観察された。この変化は、ひとつの細胞内において葉緑体が同調して進行するというより、すべての細胞内においてランダムに進行して行っているように見えた。クロロフィル含量およびそのa/b比に大きな変化は無かった。葉緑体チラコイド膜の形態変化と老化、環境ストレスなどの生理学的条件との関連についても考察したい。