抄録
タバコ種間F1雑種(Nicotiana gossei x N. tabacum)幼苗は下胚軸に始まる細胞死が全身に拡大して致死する。雑種培養細胞を用いたこれまでの研究で、液胞崩壊が細胞死に重要な役割を果たすことが分かっている。そこで、幼苗致死での液胞の役割を知るため、電子顕微鏡観察をおこなった。発芽1日目(1DAG)の幼苗の下胚軸基部の表皮細胞では、液胞膜上に瘤状構造の形成、細胞質での多数の小胞形成、そして液胞膜の部分的崩壊などの異常が観察された。これらの異常は、2DAG以降は柔組織細胞へと拡大し、3DAGでは大多数の細胞の液胞膜が崩壊し、また原形質分離を起こすとともに葉緑体膜が失われた細胞も出現した。しかし、雑種致死発現を抑制する37℃で育てた雑種幼苗とN. tabacumの幼苗にはこれらの異常は観察されなかったので、液胞膜におこる形態的特徴は雑種の細胞死と密接に関連しているものと考えられた。液胞崩壊による細胞死に重要な役割をもつVPE (vacuolar processing enzyme)活性は26℃で致死が進行する幼苗において、37℃やシクロヘキシミド処理により致死が抑制された幼苗よりも高かった。また、Caspase-1の特異的阻害剤であるAc-YVAD-CHOで雑種幼苗を処理すると細胞死が強く抑制された。