抄録
核小体ヌクレオリンはpre-rRNAの転写、プロセシングと修飾、核内でのリボソーム集合などリボソーム形成の様々なステップで制御因子として働き、動物や酵母ではその遺伝子発現は細胞増殖と強くリンクしている。シロイヌナズナはAtNucl.-1とAtNucl.-2の2つのヌクレオリン遺伝子を持つ。私たちは先に、AtNucl.-1の発現は糖によって多数のリボソームタンパク質 (RP)、snoRNP遺伝子などと共に強く誘導され、その遺伝子破壊はpre-rRNAプロセシング効率の低下を起こすことを示した。AtNucl.-1破壊株は、野生型株に比べて生育が遅い代わりに長寿であり、pointed-first leaf, short valve などの形態異常に加え、RP遺伝子の糖応答性発現の低下などの表現型を示し、それらはリボソーム形成能低下に起因すると推定された。AtNucl.-1と異なり、AtNucl.-2 mRNAはつぼみ以外ではほとんど検出されず、AtNucl.-2破壊株に生育や形態の異常は見られなかった。しかし、両遺伝子破壊株の交配によって得られた多数の種子を解析したところ、二重破壊株の遺伝子型を持つ種子は得られず胚性致死になると考えられる。酵母では、ヌクレオリンの欠損は成長速度を低下させ、低温感受性を高めるが生育に必須ではない。しかし、シロイヌナズナの生育にヌクレオリンは必須と考えられる。