抄録
高等植物では、ほとんどすべての組織において分裂を伴わないDNA複製(エンドリデュプリケーション)を行うことにより、植物の形態を制御していることが知られている。エンドリデュプリケーションは、植物の形態形成、分化などに関わる非常に重要な機構であり、その分子メカニズムの解明は植物の生存、進化を理解する上で最も重要な課題である。
私達は、エンドリデュプリケーションの分子機構を明らかにするために、シロイヌナズナのアクチベーションタグ変異体を用いて、核相が増大する変異体のスクリーニングを行った。その結果、野性株に比べて核含量の割合が高くなる優性変異体ilp5-D (increased level of polyploidy5-D)を単離した。この変異体では胚軸細胞が太くなり、トライコームの枝数が増大するなどの、細胞の体積の増大が観察された。ilp5-Dの原因遺伝子を単離したところ、この遺伝子は核移行シグナルを含むタンパク質をコードしていた。次に、ILP5遺伝子の発現解析を行ったところ、細胞伸長が激しく起きている組織で特異的に発現していた。また、ILP5遺伝子の発現を抑制させた植物を作成したところ、野性型に比べ小型化し、DNA含量の減少も見られた。これらの結果より、ILP5はエンドリデュプリケーションを正に制御することにより、細胞の体積の増大などを促進していることが示唆された。