抄録
フモニシンB1(FB1)は、植物のプログラム細胞死(以下、細胞死と略す)を誘導する。FB1はスフィンゴ脂質代謝系におけるセラミド合成を阻害し、細胞内に遊離のスフィンゴシンを蓄積させることから、近年、細胞死の誘因となるシグナルの一つが、細胞内のスフィンゴシンレベルの増加にあるといわれている。一方、スフィンゴシンの蓄積を回避する機構として、スフィンゴシンをリン酸化し、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)を合成する新しい経路が提唱されている。S1Pの細胞内レベルは、S1Pの合成酵素スフィンゴシンキナーゼと、S1Pの分解酵素スフィンゴシン-1-リン酸リアーゼ(SPL)またはスフィンゴシン-1-リン酸ホスファターゼ(SPP)の相対活性により決定されると考えられる。本研究では、スフィンゴシンのリン酸化が細胞内セラミドレベルを調節し、細胞死の誘導を制御する可能性を、上記三つの酵素遺伝子の発現制御の観点から明らかにすることを目的とする。シロイヌナズナの葉にFB1を処理し、スフィンゴ脂質代謝に関係する酵素遺伝子の発現をリアルタイムPCRによって調べたところ、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ遺伝子(AtLCB2-2)とSPP遺伝子(AtSPP1)の発現が増加した。また、SPLに関するシロイヌナズナ遺伝子破壊株(SALK T-DNAライン)の葉にFB1を処理したところ、野生株よりも傷害の程度が大きかった。