抄録
世界人口のうち約10億人が鉄欠乏性貧血症であると言われており、特にアジアで深刻な問題となっている。そこで、種子における鉄含有量を高めたイネ(高鉄米)を創製すれば、鉄欠乏性貧血症の改善に大きく貢献すると考えられる。すでに我々は、イネの胚乳に鉄貯蔵タンパク質であるフェリチンを高発現させ、種子における鉄含有量を最大で約3倍に増加させることに成功した。しかし、フェリチンの発現をさらに強化させても種子の鉄含有量はあまり増加しなかった。これは植物体内に充分な鉄がないためであり、鉄の吸収や転流を強化しない限り、これ以上鉄含有量を増加できないと考えられた。そこで本研究では、ダイズフェリチン遺伝子SoyferH2と共に、イネ科植物の鉄獲得機構において重要なムギネ酸類の生合成に関わるオオムギの遺伝子、HvNAS1、HvNAATA,BおよびIDS3をイネに導入することにより、イネの鉄吸収・転流能力を向上させ、より鉄含有量の高い高鉄米を創製することを試みた。SoyferH2は、2.3kGluB1とGlb1の二種のイネ胚乳特異的発現プロモーターを用いて発現させた。さらに、将来の実用化を念頭におき、選抜マーカーを外すことが可能な大容量マーカーフリーベクターを用いた。現在、102系統のT0形質転換体が得られたので、今後、T1種子中のフェリチンの発現と鉄含有量について測定した結果を報告する予定である。