抄録
植物細胞は、成熟するにつれて液胞を大きく発達させ、代謝の場として重要な細胞質は細胞膜と液胞膜に挟まれた構造となる。植物は、1) 蒸散で失われた水を根からすみやかに供給することによって水バランスを保ち、2) 伸長部位の細胞に水を送り込むことによって成長している。さらに、3)乾燥ストレス下では、細胞脱水を防ぐとともに、細胞質浸透圧の急変を避けることも必要になる。これらの相反する要求を満たすために、細胞膜と液胞膜の水透過率調節は重要であり、両方の膜に発現する水チャネルがその役割を果たしているものと想定される。そこで、細胞膜と液胞膜の水チャネルの役割を明確にするため、内外の浸透圧差によるプロトプラストの膨張・収縮を再現する理論モデルを用いた解析をおこなった。その結果、1)細胞膜の水透過率Pf1と液胞膜の水透過率Pf2を両者ともに高くすることによって、細胞の生長(膨張)と、細胞間の水輸送を最も促進することができる。2)乾燥条件下では、Pf1とPf2を両者ともに低くすることによって、細胞全体からの脱水を効果的に抑制することができる。ただし、細胞質からの急激な脱水を最も抑制することができるのは、Pf1を低くPf2を高くした場合である。3)液胞の小さな(細胞容積の50%以下)細胞では、細胞膜の水透過率Pf1のみが重要で、液胞膜の水透過率Pf2の大小は重要でないことなどが示された。