抄録
ホウレンソウ葉肉細胞に青色強光(460 nm, 50 μmol/m2 sec)を照射すると、30分以内に葉緑体の逃避運動が誘発された。葉緑体は光の方向に対して垂直な面から平行な面へと、速度約1 μm/minで移動した。この葉緑体逃避運動に対するアクトミオシン系阻害剤の効果を調べた。アクチン脱重合剤cytochalasin B(100 μM)は逃避運動を可逆的に阻害した。逃避運動はミオシン阻害剤BDM(2,3-butanedion monoxime)によっても可逆的に阻害され、その効果はBDM濃度依存的(0-100 mM)であった。BDMによる阻害がアクチン繊維の破壊によるものではないことを、蛍光ファロイジン染色により確認した。次に、逃避運動の際にアクチン構築に変化が見られるかを調べた。作用光照射前の細胞では、葉緑体を囲むような細いアクチン繊維束が見られたのに対し、青色強光照射下では、細胞内を横切るような太い直線的なアクチン繊維束が観察できるようになった。一方、赤色強光(660 nm, 30 μmol/m2 sec)では葉緑体逃避運動は誘発されず、アクチン構築の顕著な変化も見られなかった。本研究結果から、ホウレンソウ葉肉細胞ではアクチンとミオシンの両者が葉緑体運動において不可欠な働きを担っていることが示唆された。