抄録
造礁サンゴは刺胞動物のサンゴと共生藻類との共生体である。サンゴ礁の浅海域に生息するサンゴはめまぐるしく変化する光環境にさらされている。例えば、波面による集光効果によって水底に届く光量は不均一となり、瞬間的に9000μmol photons m-2s-1に達することが示唆されている。近年、サンゴ共生藻の光阻害が造礁サンゴの白化現象(共生関係の崩壊)を引き起こす要因である事が示された。本研究では、波による集光効果がサンゴ共生藻の光合成に及ぼす作用を検討するため、浅海域の優占サンゴ種であるコユビミドリイシAcropora digitiferaを対象とし、光強度を振幅させた場合の影響を調べた。積算光量を光飽和レベルより高くした状態(500μmol photons m-2s-1)にて振幅光暴露(3秒間の強光;1300μmol photons m-2s-1/7秒間の弱光;155 μmol photons m-2s-1の繰り返し)を1時間おこなった結果、振幅光量のグループでは、等積算光量を無振幅に与えた続けたグループに比べて光阻害の緩和が見られた。さらに、高水温条件下(28, 30, 32, 34℃)で同様の効果を比較したところ、すべての温度域で光阻害の低減が認められた。以上の結果より光の揺らぎが浅海域(特に細波が起こりやすい環境であるサンゴ礁池やタイドプールなど)に生息するサンゴの共生藻に対して光ストレス低減効果を持つことが示唆された。