抄録
培養細胞ながら高い光合成活性を有し,無糖培地中で光合成のみによって継続的に増殖するシロイヌナズナ光独立栄養培養細胞を確立し,強光順化過程における光合成機能と葉緑体色素-タンパク質複合体の変化について調べた。シロイヌナズナ培養細胞を強光(200 μmol photons m-2 s-1)あるいは弱光(50 μmol photons m-2 s-1)下で培養し,クロロフィル蛍光を測定するとともに葉緑体色素組成を分析した。その結果,強光下で育てた細胞(HL細胞)は弱光下で育てた細胞(LL細胞)に比べて,強光下での高い非光化学的クエンチング係数と高いPSIIの量子収率,また高いCarotenoids/Chl比,高いキサントフィルサイクル色素含量を示す等,陽葉と類似した性質を有していた。さらに暗処理または強光ストレス処理(1000 μphotons m -2 s -1,30min)直後に細胞からチラコイド膜を調製し,色素-タンパク複合体組成を調べた。その結果,強光ストレス処理後はLL,HLいずれの細胞においてもLHCIIでゼアキサンチンの割合が増加し,特にHL細胞ではLHCIIタンパク質当たりのキサントフィル含量が増加していた。タンパク質組成ではHL細胞でLhcb3/Lhcb1比の増加が認められた。以上の結果より,培養細胞においても緑葉と同様の強光適順化反応が認められたことから,シロイヌナズナ光独立栄養培養細胞は細胞レベルでの光環境適応機構のモデルとなり得ると考えられた。