抄録
低温及び乾燥環境下では、数種の代謝関連遺伝子が転写レベルで制御されていることが知られている。また、シロイヌナズナのDREB1A遺伝子は低温ストレス、DREB2A遺伝子は乾燥や塩ストレスによって発現が誘導される。この2つの転写因子をそれぞれ恒常的に過剰発現させた形質転換植物は、低温・乾燥・塩ストレスに対する耐性能が向上することが示されている。このため2つの転写因子が制御する下流遺伝子は、低温・乾燥・塩ストレスに対する耐性において重要な機能を果たしていると考えられた。
本研究では、低温及び乾燥環境下で発現誘導される遺伝子とDREB1A及びDREB2A過剰発現植物体で発現誘導されている遺伝子を22Kオリゴアレイを用いて比較解析した。さらに、代謝関連遺伝子に着目し、低温及び乾燥環境下でカギとなる代謝関連遺伝子を検討した。その結果、DREB1A及びDREB2A遺伝子は、いくつかの代謝関連遺伝子の発現制御に関わっていることが明らかになった。また、低温及び乾燥環境下で蓄積する代謝産物とDREB1A及びDREB2A過剰発現植物体内に蓄積する代謝産物をLC/MS、GC/MS、CE/MSを用いて検出し比較した。その結果、低温及び乾燥ストレス環境下で蓄積する代謝産物とDREB1AおよびDREB2A過剰発現植物体で蓄積する代謝産物には、それぞれ類似性があることが示された。これらの解析からDREB1AおよびDREB2A遺伝子が制御する下流遺伝子の機能およびストレス耐性の獲得機構について考察する。