抄録
シロイヌナズナJB101株はω-3脂肪酸不飽和化酵素を欠損したfad7突然変異系統の一つである。この系統は、他のfad7系統とは異なり、塩ストレスに強いという特徴をもつ。JB101株に正常型FAD7遺伝子を導入し、fad7変異を相補させた形質転換植物においても、耐塩性を失わないことから、この株は、fad7変異とは異なる未同定の変異により耐塩性を獲得している可能性が考えられた。そこで、マップベースクローニングによってその原因遺伝子の同定を行ったところ、FAD7とは異なる遺伝子にナンセンス変異が存在することがわかった。遺伝学的相補性検定から、この遺伝子が原因遺伝子であることが確認された。新たに同定された遺伝子座をstm1(salt tolerant mutant1)と命名した。STM1遺伝子は、機能未知の膜貫通型Ankyrin repeat proteinをコードしている。プロモーターGUS実験およびRT-PCRによる発現解析から、STM1は根、葉、茎、花のいずれの器官においても発現していることがわかった。また、塩ストレス処理によりSTM1 mRNAの蓄積量が増加した。このことから、STM1の発現誘導が、塩ストレスによって植物が枯死に至るメカニズムに関与していると考えられる。GFP移送実験から、STM1タンパク質が細胞膜に局在することが示唆された。新規細胞膜タンパク質STM1の機能を解析することにより、植物の塩ストレス応答機構に関する新たな知見が得られると考えられる。