抄録
これまでの我々の研究で、シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803のシグマ因子SigEは暗条件下で解糖系、酸化的ペントースリン酸経路、グリコーゲン異化の遺伝子群の発現を正に制御していることが示されている (Osanai et al., 2005)。一方、SigEの発現は窒素欠乏時に転写誘導されることが知られており、糖代謝と窒素栄養状態との相関が示唆された。今回我々は野生株を用いてトランスクリプトーム解析を行い、糖異化遺伝子群のmRNA量が、窒素欠乏時に増加することを見いだした。実際に酵素活性レベルでも、酸化的ペントースリン酸経路の主要な酵素であるグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、6-ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼの活性は上昇していた。さらにsigE欠損株でも窒素欠乏下でこれらの発現誘導がおこることから、この誘導がSigEとは独立した現象であることが明らかとなった。次に、窒素のグローバルな転写因子として知られるNtcAの変異株を用いて同様の実験を行ったところ、ntcA変異株では、窒素欠乏時の糖異化遺伝子群の発現誘導が著しく低下した。これらの結果より、糖異化遺伝子群の発現がSigE, NtcAなどによる多重制御を受けている可能性が示唆された。